賃貸住宅の家主・オーナーと事業者の間にパートナーシップの関係、信頼関係を構築するには、オーナーへの「啓発」と自社レベルの「見える化」を意識した、戦略的コミュニケーションが有効だと書きました。
そして、戦略的コミュニケーションとして最も効果的な施策は、何といってもニュースレターを筆頭にしたオウンドメディアです。
オウンドメディアは、不動産業に限らず日本の企業には、かなり浸透しているマーケティング施策です。
全国700人の企業経営幹部およびマーケティング担当者に対し、日経BPコンサルティング社が行った2015年9月の調査によれば、「ウェブサイト」によるオウンドメディアを保有している企業は33.6%、冊子など「紙媒体」によるオウンドメディアの保有率が22.0%とのことです。
「家主・オーナー向けニュースレター(情報誌)」など、いわばオーナー・マーケティングの鉄板ツールとして浸透しつつある賃貸管理、仲介業においても、その割合は同じくらいではないでしょうか。
また、各企業オウンドメディアの保有の目的は、ウェブでも紙媒体でも「企業のブランディング」がトップです。
そして「商品のブランディング」「商品の特徴説明や理解促進」と次いでいます。
一見「ブランディング」といえば、「ブランド」として名を売ろうとする取り組みのように思われますが、本質的には、
マーケティング戦略です。
つまり、「信頼感」や「親しみやすさ」を訴求するために、オウンドメディアを活用しているということが伺えます。
逆にいえば、消費者の購買行動においては「信頼感」や「親しみやすさ」が重要であると、多くの企業が意識しているといえるのです。
オウンドメディアの一つでもあるニュースレターの意義に関しては、こちらに書きましたのでご参考にしてください。
ところで、ウェブサイトによるオウンドメディアと、ニュースレターなど紙媒体のオウンドメディアはどちらが効果的なのかという議論がありますが、このようなデータがあります。
意外に思われるかも知れませんが、紙媒体の効果を挙げる企業の割合の方が多いのです。
しかし、これこそ業種やターゲットによるでしょう。
「広く発信する」タイプのオウンドメディアと、ターゲットが特定されているタイプでも、大きく異なるはずです。
一般消費者をターゲットとした商品、サービスを提供する企業であれば、ウェブによるオウンドメディアが成果を上げています。
一方、賃貸管理、仲介業におけるオーナー開拓、囲い込みなど、通常は特定のエリアにおけるマーケティングでは、紙媒体が勝ります。
また、BtoBマーケティングにおいて、企業の管理者レベルがターゲットであれば、紙媒体のオウンドメディアの方が効果的だというデータも存在します。
ちなみに、昨今、E-mailによるいわゆる「メールマガジン」は、一般的には苦戦を強いられています。
世の中に出始めは、人々の閲読率も高く効果が上がったのです。
しかし、低コストで送信できるということもあり、多くの事業者が取り入れています。よって一人に対し、毎日膨大な量のメールマガジンが送られ、その分閲読率は下落しています。
ほとんどのメールマガジンが、単に「買って、買って」という広告宣伝に過ぎず、顧客本位の情報を提供していない、というクオリティの問題もあるでしょう。
しかし、その状況だけに、しっかりと顧客本位の情報を提供できているメールマガジンは、抜きん出て閲読され、成果を上げています。この辺りはメールマガジンもまだまだ侮れないところです。
SNSはどうでしょうか。
それぞれ特性が異なるので一概には言えませんが、「広く発信している」感が表れてしまうと、効果を削いでしまうことが多いようです。
ニュースレターには、「貴方だけに特別に送っています」という特別感が必要です。
まさに、この「お手紙」のような特別感が、オーナーの心に響くのです。
SNSでもこのポイントを意識する必要はあるでしょう。
いずれの手段にせよ、メリット、デメリットはありますが、企業自ら情報を発信することは、マーケティング戦略上極めて重要なことです。
この傾向は、ますます高まっているのではないでしょうか。
一般財団法人経済広報センターが2020年3月に行なった「生活者の『企業観』に関する調査報告書」によれば、ある企業を評価する際、誰が発信する情報を信用するかという調査結果があります。
確かに、マスメディアによる情報は「客観性のある情報」という認識から、信用度は8割ほどありトップです。
しかしながら、企業が自ら発信する情報も、
「企業からの発信(企業ホームページ、各種刊行物、ソーシャルメディアなど)」が78%となり、過去2回の調査結果よりわずかながら上昇傾向となっている。
※引用:一般財団法人経済広報センター「生活者の『企業観』に関する調査報告書」
と、2番目に高いのです。
このことは大変重要なポイントです。
だからこそ、情報を発信すること、戦略的コミュニケーションに積極的に取り組まない手はないのです。
ただ、戦略的コミュニケーションの施策として、ニュースレターなどのオウンドメディアに取り組むには、相応の労力とコストが掛かります。
少数精鋭や新興の事業者など、これがハードルとなり、歩を進められないというジレンマもあるのではないでしょうか。